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Peter Doig, courtesy Michael Werner Gallery.

“ロマンティックかつミステリアス。「画家の中の画家」ピータードイグ”

Combine diverse images

ピーター・ドイグという名前を最近聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか?

それもそのはず。

彼は東京国立近代美術館で2020年2月26日から10月11日(実際は6月14日までの予定がコロナウイルスの影響で休館し延長)まで日本で初の個展を開いていました。

そんなピーター・ドイグ展を見に行って興味を持った!という方や予定が合わず見逃してしまった……。という方もここで一緒に彼の魅力をチェックしていきましょう!

【誰もが見たことがあるようで、見たことがない】
イメージの魔術師・ピータードイグについて

ピーター・ドイグは1959年にスコットランドで生まれました。しかし父の仕事の関係で、1962年にカリブ海のトリニダード島へ。その後1966年にカナダ、1979年にはロンドンと移り住み、ここで絵画を学びます。2002年にトリニダード島へ戻ってきた彼は、現在までこの地に定住しています。各地を転々としたドイグは、作品にもその影響が随所に見られます。

また、ピータードイグの絵画の特徴としてあげられるのは、どこか見ていて懐かしい気持ちになるということ。 その理由は、彼が様々な画家の作品を引用していることや、映画や写真、レコードのアルバムカバー、果ては新聞の切り抜きなどといった些細なところからもインスピレーションを受けて絵画を描いているからです。

次からは、影響を受けた媒体別に彼の絵画を紹介していきたいと思います。

あの有名な日本映画も絵画のモチーフに!

まずはこちら。

《のまれる》というタイトルの絵画です。

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Peter Doig,《のまれる》Peter Doigj 1990年、油彩・キャンバス 197×241cm ヤゲオ財団コレクション 台湾蔵

ピータードイグの作品には、ボートを描いた作品が多くあります。その中でも有名なのがこの《のまれる》。

実は、この作品は映画『13日の金曜日』のワンシーンからインスピレーションを受けて作成されたものだそうです。

実際映画を見た方なら、この「のまれる」を見てどのシーンかピンとくるのではないでしょうか。

もちろんこの映画はホラー映画なのですが、ドイグはこのシーンについて「あの映画の中で最も怖くない瞬間」であり、「物語の文脈から離してみれば、ロマンティックな夢のようなシーンだと思う」と語っています。

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Peter Doig,《ラペイルーズの壁》 2004年 パステル・厚紙 200×250.5cm ニューヨーク近代美術館

次にこちら。《ラペイルーズの壁》という作品です。

タイトルにもなっている「ラペイルーズ」とはトリニダード・トバゴ共和国の首都、ポート・オブ・スペインにあるラペイルーズ墓地という墓地です。 一見して不穏な雰囲気のこの絵画、壁の向こうがその「墓地」であることや、穴だらけの傘をさしたまま歩いているおじさん(実際こういうおじさんがいたそうです)などがどことなく不安定な気持ちにさせます。

この絵画のモチーフになったのはなんと日本映画の名作小津安二郎監督の『東京物語』だそうです。 あの映画内での静けさや、他国でありながらどこか懐かしさを感じる雰囲気はここからきているのかもしれませんね。

ドイグは、先に上げた『13日の金曜日』や『東京物語』をモチーフとした作品を他にも描いています。 また、ドイグは2003年から友人アーティストらと「スタジオフィルムクラブ」という無料で誰でも参加可能な映画の上映会を行っており、その上映会を周知するために様々な映画の宣伝ポスターのような絵も多数描いています。

過去の巨匠から影響を受けた絵画たち

ピータードイグは、過去の巨匠たちから様々な影響を受けて絵画を作成しています。

よく挙げられているのがゴーギャン、ゴッホ、マティス、ムンク。

以下の《馬と騎手》という作品はゴヤの《ウェリントン公爵騎馬像》からインスピレーションを受けたもの。ただしドイグの方は、馬に乗っている人の顔がウェリントン公爵ではな、ドイグ自身になっています。

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Peter Doig,《馬と騎手》2014年 油彩・キャンバス 240×360cm courtesy Michael Werner Gallery

元ネタは、以下のゴヤの《ウェリントン公爵騎馬像》の作品です。

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ゴヤ,《ウェリントン公爵騎馬像》1812年 294×241cm アプスリー・ハウス、ロンドン

現代アートでは、過去の作品からの引用が使われ、サンプリングやリミックスがよく用いられます。よく、「これはパクリなんじゃないか?」と思う人もいるかもしれませんが、サンプリングは過去の”一部分”を使うことによって、新しい作品を作るという手法なのです。ちなみに、ヒップホップなどの音楽の世界では頻繁に使われている手法ですね。

参考:サンプリング - Wikipedia

以下の《パラゴン》や《赤いボート(想像の少年たち)》は色合いなどからゴーギャンの影響を受けていそうです。ちなみに、赤いボート(想像の少年たち)はロンドンで見つけたインドの絵葉書が元になっているそうです。

ドイグの作品は、こうして色々なものからインスピレーションを受けているのですね。

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Peter Doig,《パラゴン》2006年 油彩・キャンバス 195×295cm courtesy Michael Werner Gallery

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Peter Doig,《赤いボート(想像の少年たち)》2004年 油彩・キャンバス 200×186cm courtesy Michael Werner Gallery

日本初の個展

そんなピータードイグですが、冒頭でも言ったように今年(2020年)東京国立近代美術館で日本初の個展を開いています。

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Peter Doig,《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ》2000-02年 キャンバス・油彩 196×296cm シカゴ美術館蔵

こちらの《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ》の絵画はドイグ展のポスターやチラシなどに使われていたもの。幻想的で落ち着いており、不思議な気持ちにさせられます。

ピータードイグの作品は個人蔵が多いため、集めるのには大変苦労したそう。 それでもこれだけの作品が日本に集まったのはすごいことですね。 また、なんとピータードイグ自身も日本に来日していました。コロナウイルスの影響がなければ、個展を訪れた後に北海道でスキーをする予定だったそう。 ドイグの作品の中にもスキーを描いたものがあり、そのスキーの絵はなんと日本の観光局の写真からインスピレーションを受けて作成されたものでした。(ニセコスキー場だそうです)

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Peter Doig,《スキージャケット》1994年 キャンバス・油彩 295×351cm Tate

残念ながらすでに終わってしまったピータードイグ展ですが、You Tubeでは「対談:ピーター・ドイグ×小野正嗣」という動画が上げられており、作品の解説やエピソードなどが存分に語られています。ちなみにスキー場を訪れる予定だった話や、先程紹介した赤いボート(想像の少年たち)に登場する少年達とのエピソードも詳しく語っています。

また、この展覧会は写真撮影OKだったのでSNSに「#ピータードイグ展」で投稿を促していました。SNSでこのハッシュタグを検索してみると面白いかもしれません!

ピータードイグ展グッズの入手方法

すでに終わってしまったけどやっぱり見たかった……。行きたかった……。という方! なんとオンラインでピータードイグ展のグッズの一部や図録が販売されています。 現地で見ることはできなくとも、図録でじっくり鑑賞するのも良いのではないでしょうか。

おすすめはトートバッグ。代表作の《のまれる》、《ラペイルーズの壁》、《東京物語》、《熱いトタン屋根の猫》が大きく印刷されており、とってもスタイリッシュです。

少し大きめで内ポケットもついているので、お買い物に持っていくのにぴったり。

また、このグッズのために描き下ろした貴重なTシャツもおすすめ!すでに長袖は売り切れてしまっているので気になる方はぜひお早めにチェックしてみてください!

[参照サイト]

ピータードイグ展

英語wiki

Peter Doig_prof

Peter Doig(ピーター・ドイグ)

出身地:スコットランド

生年月日:1959年

略歴:1959年にスコットランドで生まれ、1962年にカリブ海のトリニダード島へ。1966年にはカナダへ移住。その後、ファインアートを学ぶため、1979年ロンドンに移り住む。チェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインにて修士号を取得し、1994年ターナー賞にノミネートされた。現在最も注目されるアーティストの一人で、様々なアーティストに影響を与えていることから過去の巨匠になぞらえ、「画家の中の画家」と呼ばれることがある。

清水にすい

学芸員・ライター・歌人。専門分野は、アートやポップカルチャー全般。建築、博物館、美術館にも造詣がある。歌壇に参加している歌人としても活動中。

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